「若者のテレビ視聴とメディア並行利用行動 ―大学生のオーディエンス・エスノグラフィ調査から」

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慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所紀要『メディア・コミュニケーション』 http://www.mediacom.keio.ac.jp

若者のテレビ視聴とメディア並行利用行動――大学生のオーディエンス・エスノグラフィ調査から (2008年)――[1] 

 

志岐裕子・村山陽・藤田結子

 

1 はじめに

 NHK放送文化研究所の発表によると,若者の間で「テレビ視聴の希薄化」とでもいうような変化が起きている。漠然とした視聴態度や視聴習慣の弱まりなど,関与の薄い見方が進行しているのである(荒牧・増田・中野, 2008: 2-5)。さらに,「20代はドラマを見なくなった」という傾向も明らかにされている。この理由として,「毎週同じ時間の視聴を強制されることへの拒否感」(時間管理欲求),「確実に面白い番組しか見たくない,テレビに裏切られたくないという気持ち」(リスク回避)という若者の意識のあり方が指摘されている。これらはいずれも,日常的にインターネットを利用する20代が自然に身につけた視聴スタイルを反映しているという(同, 2008: 14)。

このような議論を踏まえ,本研究は,実際に現在の若者たちがどのようにテレビを視聴しているのかを,インターネット利用との関連から考察することを目的とする。上記の議論は,世論調査およびグループ・インタビューから得られた知見にもとづいた考察・推論であり,今日,若者が家庭でテレビ番組を視聴する状況についてはいまだに不明な点が多い。若者たちは,どのような環境でテレビ画面に向かっているのだろうか。どのようにテレビとインターネット,またはほかのメディアを同時に/交互に利用しているのだろうか。彼ら彼女らの「時間管理欲求」は,本当にドラマ視聴を減らしているのだろうか。このような若者のテレビの見方に関するより具体的な状況を明らかにするために,本研究では,参与観察によるオーディエンス・エスノグラフィを試みる。また,特定の視聴行動をなぜするのかという動機についても考察していきたい。

以上の目的により,本稿では,まず若者のテレビ視聴に関連する先行研究の議論(戦後テレビ視聴の変容,インターネット普及の影響,「家庭」というコンテクストの問題)を検討する。そしてつぎに,参与観察の結果をもとに,上記の問題を考察していきたい。

 

2 問題の背景

2-1 戦後テレビ視聴の変容

メディア研究の領域では,新たなメディアが登場するたびに,それが人々の生活時間や既存メディアの利用に与える影響についての考察が行われてきた。とりわけテレビは,その研究数の膨大さからも,これまで人々の生活に最も大きな変化を及ぼしたメディアであるといえる。このようなテレビが人々の生活時間へ与えた影響については,「生活の夜型化」「就寝時刻の遅れ」「睡眠時間の減少」などが報告されている(NHK放送文化研究所, 2003: 148)。さらに,既存メディアの利用への影響については,それまで人々の主要な情報源であったラジオがテレビ出現の煽りを最も大きく受け,その行為者率が激減したことが指摘されている(同, 2003: 144)。

テレビが生活時間や既存メディアの利用に与える影響はもとより,テレビの利用の仕方それ自体も時代とともに大きく変容してきた。テレビがどのように人々の日常生活のなかに定着したかを考慮すると,それは家庭環境や家族のあり方と密接にかつ相互に関連しながら日常生活に浸透していったことが理解できる。

1953年に日本でテレビ放送が開始されてから間もない時期は,受信契約者の大半が営業用や高所得者層で占められていたため,飲食店のテレビ,駅前に設置された「街頭テレビ」,および近所の裕福な家庭のテレビなどで視聴する集団視聴が主であった(有馬・下島, 2003; NHK放送文化研究所, 2003: 113)。

1950年代後半から60年代前半にかけてテレビが各世帯へ普及し始めると,家族そろってテレビ番組を視聴する家族視聴のスタイルが主流となった。この時期のテレビと家族の関係について小林(2003)は「あらかじめ『団欒』があり,そこにテレビが普及していったのではなく,多くの場合,テレビの普及とともに『団欒』が形成されていった」ことを指摘し (p.75),「日本の『家庭』における『団欒』の形成と定着が,テレビの放送開始から普及とほぼ同時期に進行してきたこと」を強調している。

その後,1970年代後半から80年代半ばにかけて,個人視聴の割合が徐々に増加し始めた(NHK放送文化研究所, 2003: 125)。この個人視聴の増加は,一家でのテレビ複数台所有と,家族人数の減少やひとり暮らしの増加,個室の増加などの居住条件の変化が同時期に起こったためと考えられる。さらに昨今の視聴率調査によれば,主として視聴される番組ジャンルやチャンネルおよび視聴時間帯が世代別に分かれる傾向にある(藤原, 1982a, 1982b, 1983; 牧田, 2005; NHK放送文化研究所, 2006)。このことからも,生活スタイルや番組嗜好もテレビの見方が細分化する一助となっていると推測される。また,テレビを集中して視聴する「専念視聴」,ほかの生活活動と並行しながら視聴する「ながら視聴」,ザッピングしながらなんとなくいろいろな番組を視聴する「漠然視聴」など,テレビの見方は個人レベルにおいても多様化している。

 

2-2 インターネット普及の影響

では,携帯電話やパソコンの普及,ワンセグ放送サービスの開始など,メディア環境が大きく変動した現在,人々のテレビ視聴はどのように変化しているのだろうか。そして,テレビ視聴と新たなメディア利用との関連はどのように描き出されるのだろうか。

近年,メディア研究領域において最も注目を集めているのはインターネットである。テレビの登場から普及期にかけて誕生・成長した人々が「テレビ世代」と定義されることを鑑みると(NHK放送文化研究所, 2003: 179),現代の10代および20代はまさに「インターネット世代」とも呼ぶべき存在といえる。総務省(2008)の「情報通信白書」によると,2007年末のインターネット利用人口は,8,811万人,人口普及率は69.0%と推計されている。そのうち「インターネット世代」のネット利用率に着目すると,13歳以上の10代で94.7%,20代で94.8%と,いずれも高い水準を保持している。

このインターネットの登場が既存メディア,とくにテレビの利用状況にどのような影響を及ぼすかについては,Windows95の登場を契機のひとつとしてインターネットが普及しはじめた1990年代半ば以降,多くの研究が蓄積されている。たとえば橋元(2003)は,質問紙調査と日記式記録票による調査を実施し,インターネット利用状況とテレビ視聴時間との間には時間的な競合関係はみられず,インターネット利用自体がテレビ視聴時間に与える影響は小さいことを明らかにした。また金(2006)は,橋元の研究を受けつつ日記式調査を実施し,在宅空間におけるテレビとインターネットの利用において同時並行行動が存在することや,インターネット利用の増大がテレビ視聴時間を剥奪することには至っていないことを示している。さらに,NHKが5年ごとに行っている「国民生活時間調査」のデータからインターネットの利用とテレビ視聴との関連について分析を行った荒牧(2002)の研究においても,インターネット利用者の拡大はテレビ視聴時間の減少にはつながっていないという結論に至っている。

これらの先行研究の結果から,テレビ視聴にインターネットの登場がもたらした影響は,ラジオ聴取にテレビの登場がもたらした影響とは異なるといえるだろう。つまり,人々による新たなメディアの受容や生活への定着は,既存メディアのもつ特性との関連によって違うのである。

 

2-3 「家庭」というコンテクスト

では,上記のような違いがなぜみられるのだろうか。まずテレビ視聴がラジオ聴取に置換した背景として,音声だけのラジオに対し,映像も備えたテレビが非常に人々をひきつけたことや,両者が扱う放送の内容,ひいてはマスメディアの機能が類似していたという事実あったことが指摘されている(NHK放送文化研究所, 2003: 117)。

一方,テレビがインターネットをはじめとする新たな他メディアと共存している理由としては,テレビが低関与のメディアであることが挙げられる。テレビは視聴するにあたり集中を必ずしも強いられず,断片的・同時並行的な利用がされやすい。すなわち,家庭という空間やほかの生活活動と関与しながら利用できるという点がテレビというメディアがもつ特性のひとつだといえる。もちろん,これだけでは上記の問題に対する十分な説明にはならない。人々のメディアの受け入れ方と定着の仕方の違いを検討するためには,今一度,人々がどのようにテレビを見ているのか,そしてテレビ視聴と他メディアの利用との間にどのような関連が見出されるのかについて再考する必要があるだろう。

現代の「テレビを見ること」の特性のひとつとして,小林ら(2005)は「ながらで行われている」ことを挙げている。これまでの研究史を振り返ると,ながら視聴やメディアの並行利用に関しては,前掲した橋元や金の研究に代表されるように,時間的・空間的パースペクティブからの検討が積極的に行われてきた。しかし,具体的にどのようなことが契機となって,ながら視聴やメディアの並行利用が開始され,終了するのか,そのときの利用者の思考や心情はどのようなものであるのか,家庭環境やメディア環境などのコンテクストがテレビ視聴行動にどのような影響を与えているのかという具体的な部分についてはいまだ明らかにされていない。それは,テレビ視聴の大半が「家庭」という極めてドメスティックな場で展開される活動であるにも関わらず,その家庭という場に即して行われた研究が極めて少ないことに起因している。

イギリスのカルチュラル・スタディーズにおける代表的なメディア研究者,D. Morleyは,1986年に発表したFamily Televisionの冒頭で,テレビ視聴パターンの変化は家庭における余暇活動のコンテクスト全体においてのみ理解されうること,そしてテレビは圧倒的にドメスティックなメディアであり,その視聴が概して家庭の「内部で」行われるという事実は,直接的に調査されるよりもむしろ看過されていると批判している (Morley, 1986: 13)。20年以上前に指摘されたこのメディア研究の問題点は,現在のテレビ視聴に関する研究においても,いまだに存在するといえるだろう。

 

以上のように,戦後のテレビ視聴の変容,インターネットの普及,家庭というコンテクストを看過してきた研究上の問題を考えると,今日変化しつつあるテレビ視聴の状況を明らかにするためには,調査対象者の「家庭」という場で,より日常的状況に即した状態における人々のテレビ視聴の実態を明らかにする必要があるだろう。

そこで本研究では,若者のテレビの見方を明らかにするという目的から,とくに「インターネット世代」だといえる「大学生」を対象に調査を行いたい。前掲した「情報通信白書」によると,現在の大学生(1980年代後半生まれ)は,インターネット,とりわけウェブサイト(その記述言語であるHTMLの登場が1993年)を,生育期・成長期の情報取得の際に利用してきた世代であり,テレビとインターネットが共存するメディア環境のなかで基本的な視聴スタイルを身に着けてきたと考えられる[2]。したがって,テレビがインターネットと共存する時代に若者の視聴スタイルを考察するうえで,彼ら彼女らを調査対象とすることは十分に意義があるだろう。

 

以上のことから,調査のために「大学生はどのようにテレビを視聴し,他メディアとの並行利用を行っているのだろうか」という問いを設定し,つぎの方法を用いて考察していきたい。

 

2-4 調査方法

 

本研究は,エスノグラフィ(民族誌的調査法)を調査方法として採用した。具体的には,調査対象者宅での観察調査とインタビュー調査で構成されている。

調査対象者は,本研究の共同研究者および調査者の知人が所属する5つの大学の学生に協力を要請し募集した。調査対象者はいずれも東京または千葉に在住する学生である(学部学生17人,大学院生1人)。

調査対象者の平均年齢は21.3歳,男性10人,女性8人の計18人である。調査対象者のデモグラフィック変数およびメディア環境の詳細を表1に示す。graph

 

調査は2008年5月から8月にかけて実施した。調査は参与観察のトレーニングを受けた調査者2人(男女各1名)が行い,男性の調査対象者に関する調査は男性調査者が,女性の調査対象者に関する調査は女性調査者がそれぞれ担当した。

調査当日の調査対象者の緊張を可能な限り排除するよう,あらかじめ本調査の数日前までに面接を行い,事前にラポールを形成した。したがって,調査者と調査対象者が直接対面するのは,調査実施日時点で2回目ということになる。面接の数日後,調査者が調査対象者宅を訪問し,彼らがテレビを視聴する様子を約2時間にわたり観察した。観察内容は,調査終了後迅速に記録した。観察後,日常的なテレビの見方や,テレビに関する友人・家族との会話,昔と現在のテレビにまつわる記憶などについて30~40分間のインタビューを行った(3人については調査計画上,観察調査の後日に電話でインタビューを実施した)。インタビュー内容は,調査対象者の同意を得た上でICレコーダーに録音した。また,調査対象者の1週間の生活パターンを起床から就寝まで曜日ごとに表に記録してもらった。

後日,男女の記録を統合し,調査者が共同でコーディングおよび分析を行った。

 

3 結果

3-1従来型のテレビ視聴

まず,以前から指摘されている「専念視聴」,およびほかの生活活動や新聞などのオールドメディアの利用と並行したテレビ視聴行動を,大学生たちが具体的にどう行っているのかについて検討したい。

観察調査の結果,あらかじめ録画された番組やDVDソフト,関心を寄せる番組など,調査対象者が番組へ強い興味をもっている場合や,ドラマ・映画など番組にストーリー展開がある場合は専念視聴が多く観察された。番組に対して独り言を発する者も複数存在し,番組視聴に没入している様子が伺えた。

一方,そのときたまたま放送されていた番組を見るなど,番組への興味が薄い場合は,家事,飲食,勉強など,ほかの生活行動を伴う「ながら視聴」が多く観察された。なかには,テレビを音楽専門チャンネルに設定し,そこから流れる音楽をBGM代わりに使用する者も存在した。

「ながら視聴」やチャンネルのザッピングは,ニュースを視聴した調査対象者に多く見受けられた[3]。これらの行動はとくにCM中やニュース・トピックが切り替わる際に頻繁に観察された。たとえば調査対象者I(22歳,ひとり暮らし)は,あるトピックは集中して視聴し,別のトピックのときは英語の勉強を行う,というパターンを繰り返した。

このようなテレビ視聴の中断やザッピングの契機となるものは何かについて,調査対象者たちに尋ねたところ,ニュース・トピックに対する既視感が挙げられた。つまり,彼らはすでに見たニュース・トピックに再び接触すると,そこから新しい情報の入手は見込めないと判断し,ほかの活動に従事するということである。とくに,重要事項として長時間にわたり報道されるトピックや,その日1日で大きな変動が見込めないトピックはすでに午前中のニュースで視聴していることも多く,ほかの活動への移行やザッピングの契機となりやすいことが明らかとなった[4]

観察調査中,テレビ視聴と同時に新聞を読む者も多く存在した。紙面のなかで最もよく読まれていたのは「テレビ欄」である。「テレビ欄」は,テレビのチャンネルをザッピングする際の参照物として頻繁に並行利用されていた。結果的に調査対象者が関心を寄せる番組を見つけられなかった場合は,テレビ欄からほかの記事へ移行し新聞を読み続けるケースも確認されたが,ほとんどの場合,記事が読まれるのはCM中のみであり,番組自体が放送されている間はテレビを集中して視聴するケースが圧倒的多数であった。

このような事例から判断すると,調査対象者の多くは複数のメディアを並行利用することにより情報入手の効率化を図っていると考えられる。

 

3-2 テレビ視聴と並行利用行動

つぎに (1) 並行利用が見られるメディア・住環境,(2)ニューメディアとの並行利用,(3) 新たなテレビ視聴スタイル,についてそれぞれ検討したい。

写真1

写真2

写真1. ひとり暮らしの男子大学生A                        写真2. 家族と同居の男子大学生J

 

(1) 並行利用が見られるメディア・住環境

本調査の対象者は,全員が携帯電話とパソコンを所有しており(パソコンに関しては,2人を除く全員がネット接続),携帯電話やパソコンを使用しながら,並行してテレビを視聴する様子が見受けられた。携帯電話との並行利用に関して,携帯電話は常に手元に置かれるため,テレビを視聴しながら携帯電話を用いて,メールや電子掲示板(たとえばmixiなどのSNS)を確認する様子が頻繁に観察された。

しかしながら,パソコンとの並行利用に関しては,調査対象者のメディア環境が影響することが示された。まず,ひとり暮らしの大学生の場合,テレビの隣にパソコンを配置するケースが多いため,並行利用も多く見受けられた。その一方で,家族と同居の大学生の場合は,パソコンが置かれている部屋(多くは自室)とテレビが置かれている部屋(多くは居間)が分かれていることが多く,その場合はパソコンとテレビの並行利用は見られなかった (図1,2参照)。

より詳細に検討すると,写真1,2が示すように,ひとり暮らしをしている学生は,並行利用がし易いように,メディア環境がセッティングされていた。一方で,家族と同居している学生のメディア環境は,家族との共有スペース(生活スペース)と重なっているため,並行利用も制限されていた。

このように,携帯電話との並行利用は共通して見られるが,パソコンとの並行利用は,テレビ視聴時の環境に大きく影響されることが明らかとなった。

以上のことを踏まえたうえで,つぎに,パソコンと携帯電話という2つのメディア媒体に注目して,テレビとの並行利用を見ていきたい。

(2) テレビと「ニューメディア」との並行利用

テレビとパソコンおよび携帯電話との並行利用には,①メールや電子掲示板の閲覧と書き込み,②ネット検索の2つのパターンが観察された。

まず,①テレビを視聴しながらのメールや電子掲示板の閲覧と書き込みに関して,テレビ番組視聴とは関係のない「独立した利用」が観察された。メールや電子掲示板に書き込まれた内容のほとんどは,友人とのやりとり,サークルの連絡,自身または友人のブログやmixiのチェックであった。たとえば,調査対象者I (22歳, ひとり暮らし)は,テレビを視聴しながら,パソコンで所属しているボランティアサークルの電子掲示板を閲覧し,サークル活動の打ち合わせをしていた。また,テレビ視聴時に携帯電話の画面を頻繁に操作する様子が観察された調査対象者Cは,「まあ,なんかくだらない友達が日記書いていたんで,それに合わせて何かそれとなくコメント書いてみた」と語っている。

一方で,ニュースやドラマを見ながら,それに関する掲示板を閲覧したり書き込みをしたりする「相互的な利用」が観察された。具体的には,視聴している番組に関する実況板(リアルタイムで書き込んでいくスレッド)を閲覧したり,書き込みをしたりする様子が観察された。

たとえば,調査対象者A (21歳, ひとり暮らし)は,相撲中継を視聴しながら,実況板を利用していた。Aは,仕切りの間中は実況版を利用し,立ち会いが始まるとテレビ中継を視聴し,それが終わると再び実況版のコメントをチェックしていた。彼は,朝青龍と琴欧州が仕切りを行っている間,相撲解説者の「朝青龍は元気がない」というコメントに関する実況板のスレッドに注目していた。立ち会いが始まると視線をテレビ画面に移し,テレビ中継に集中していた。立ち会いが終わると,再びパソコン画面に視線を移し,朝青龍が琴欧州に悪態をついたことに関する相撲解説者のコメント「路上だったら(けんかが)始まってますよ」に関する実況版のスレッド (たとえば,「解説がやる気がない」,「まーた始まったって」など)を閲覧し,A自身も「いやー,それはねーな」と書き込んでいた。

さらに,実況版を利用する調査対象者に,使用する意義を聞いてみると,オンライン上の相手とテレビの話題を共有できることに楽しみを感じると語った。

 

(実況板について) そういう楽しみがあるよって友達に教えられて,実況版って言うんですか,この番組をやっているときに,このネタを話しながらっていうのちょっとだけはやったことありますけど,そんなに頻繁ではないですけど,たぶんそういうのってたぶんあれなんですね,1人で見ている感じがしなくて,共有,同じこと考えている人がいるなって,そういう楽しみがあるだなあと<共有って言うと>いや,思いますよ,ニコニコ動画ってコメントが流れてきたりするんですけど,それで一緒の考えだと共感できたりとか。 (C,  21歳, ひとり暮らし)

  • ( )は調査者による補足,< >は調査者の発言を示す。以下同様。

 

つぎに,②テレビを視聴しながらのネット検索に関しては,まず,ネットショッピングサイトを楽しむ様子が見受けられた。たとえば,調査対象者B (21歳, ひとり暮らし)は,テレビを視聴しながら,様々なカバン会社のサイトを眺めて,就職活動用に購入する予定のカバンを比較検討していた。また,視聴中のテレビ番組に関連した内容(テレビ番組表を含めて)について,インターネットで検索をする場面が観察された。たとえば,調査対象者R (21歳, ひとり暮らし)は,ドラマ「ROOKIES」を視聴しながら登場人物やストーリーに関してWikipedia(オンライン百科事典)を利用して検索をしていた。より詳細に観察すると,ドラマ内で「若菜」という登場人物を演じている「高岡蒼甫」という俳優について,Wikipediaで検索していた。

同様にニュース番組についても,ネット検索との並行利用が観察された。たとえば,調査対象者N (19歳, 家族と同居)は,ニュース番組で報道されていた事故について,パソコンで検索をしていた。より詳細に見てみると,青森県大間町沖における取材ヘリの遭難事故に関するニュース報道を視聴したNは,「やばいじゃん」と言いながら,Yahoo!ニュースのページを開いて確認していた。

パソコンや携帯電話のほかにも,ポータブルゲーム機でゲームをしながら,テレビを視聴するスタイルが観察された。たとえば,C (21歳, ひとり暮らし)は,プレイステーション・ポータブル(PSP)で「みんなのゴルフ」や「パワフルプロ野球」をプレイしながらテレビを視聴していた。

 

まあ,あんまりじっと集中して(テレビを)見るって,映画とかドラマしかないんで,バラエティはやっぱり見つつ,でゲームやりつつ,音聞きつつって感じですね。だから別にやってるゲームはなんでもよかったんですけど‥‥あと,ゲームのなかで区切りがいいっていうか,とりあえずあの,流れで進んでいない,止まったときに見て,おもしろかったらテレビ見るとか。(C, 21歳, ひとり暮らし)

 

このように,テレビとパソコン,携帯電話,ポータブルゲーム機との並行利用が観察された。とくにパソコン,携帯電話との並行利用には,①メールや電子掲示板の閲覧と書き込みと②ネット検索の2パターンが見られた。このうち①のメールや電子掲示板の閲覧と書き込みには,テレビ視聴とはほとんど関係のないことに関する「独立した利用」と,テレビの内容に関連している「相互的な利用」という2つの利用パターンが確認された。この「独立した利用」は,いわゆる「ながら視聴」と類似した視聴スタイルとして分類できるだろう。他方,「相互的な利用」は,従来の視聴スタイルには見られない新しいテレビ視聴のスタイルであると考えられる。

 

  (3)新たなテレビ視聴スタイル

本調査では,もうひとつの新たなテレビ視聴スタイルも観察された。まず,「YouTube」や「パンドラテレビ」のような動画共有サービスを利用して,テレビ番組を視聴するというスタイルが観察された。インタビューのなかで,見逃した連続ドラマやアニメ番組を視聴したり,子ども時代に見たアニメ番組やお笑い番組を再視聴したりするという話がよく聞かれたのである。

 

(定期的に視聴するアニメ番組「ナルト」について) たまにバイトとかこの時間入るんで,なるべく見るようにしていて,見れなかったらパンドラって言うサイトがあって,見れるんですよ,今やっているやつが何時間かしたら,無料で,ドラマも。 (I, 22歳, ひとり暮らし)

 

また,外出先ではワンセグ放送(携帯電話・移動体端末向けワンセグメント部分受信サービス)を利用してテレビを視聴するという意見も聞かれた。

 

(テレビをほとんど見ない彼女の家でテレビを見たくなった時は)もし彼女の家に行ってよほどテレビを見たいときは,ワンセグを使いますね,携帯で見れるんで,それで,サッカー見たいと思ったら。 (H, 21歳, ひとり暮らし)

 

このように,近年の動画共有サービスの普及やテレビのポータブル化が,新しいテレビ視聴スタイルに影響を与えていたのである。

では,なぜこの調査対象者たちは,テレビ番組をオンタイムで視聴するのではなく,動画共有サービスやワンセグ放送を通して視聴するのであろうか。動画共有サービスをよく利用して番組を視聴している調査対象者J(25歳, 家族と同居)の場合,「テレビでおもしろかったのがあると,YouTubeとかの動画投稿サイトに動画をあげている人がいるので,それを見る感じです…YouTubeで見ることは多いですね,繰り返し見られるじゃないですか」と述べている。アルバイトなどで夜遅く帰宅することが多く,普段はほとんどテレビを視聴する時間がないために,YouTubeを利用して好きな番組を部分的に視聴しているのである。

このように,先述の通り,やはり調査対象者たちにも「時間管理欲求」が見受けられた。つまり,勉強,アルバイト,恋人や友人との付き合い,サークル活動,就職活動など多様なルーティンをこなさなければならない今日の大学生のライフスタイルにくわえ,日常的にインターネットに接してきたことから身についたメディア利用スタイルが,彼ら彼女らの「時間管理欲求」を促している。そのために,時間管理に適した動画共有サービスやワンセグ放送を用いたテレビ番組の視聴が好まれるようである。

 

 4 おわりに

本研究は,現在の若者たちがどのようにテレビを視聴しているのかを,インターネット利用との関連から考察することを目的とした。そして,「大学生はどのようにテレビを視聴し,他メディアとの並行利用を行っているのだろうか」という問いを設定し,オーディエンス・エスノグラフィを用いて考察を行った。その結果,大半の調査対象者が,(1) 従来型のテレビ視聴,(2) テレビ視聴と他メディア並行利用行動(パソコン,携帯電話,ポータブルゲーム機),(3)新たなテレビ視聴スタイル(動画共有サービスやワンセグ放送利用)を日常的に行っていることが明らかになった。

以上のことから,つぎの点が示唆されるだろう。まず,調査対象者は,テレビに集中して視聴するときもあるが,テレビ視聴とパソコンや携帯電話やゲーム機などの他メディアとの交互・並行利用を日常的に行っている。この点で,調査対象者のテレビの見方は,(今日には並行利用を行っているとしても)幼少期から従来型のテレビ視聴の基本的なスタイルを身に着けてきた30代以上の世代とは根本的に異なるものである。したがって,「漠然とした視聴態度」「視聴習慣の弱まり」というのは,テレビ番組というソフト(コンテンツ)に対する否定的な評価の増大・関心の減少に起因するというよりも,技術発展により複数のハード(メディア)が登場しそれらの並行利用行動を身につけた世代である調査対象者にとって当然の傾向なのかもしれない。

そうであれば,「20代はドラマを見なくなった」のは,若者の関心・ライフスタイルの多様化という要因にくわえて,「時間管理欲求」により居間や自室に設置してあるテレビに向かってオンタイムで番組を視聴する機会が減少したことが要因として考えられるだろう。視聴率には表れないが,動画共有サービスやDVDなどを利用して,見たいときに好きなテレビドラマを見ている層がかなり存在する可能性がある。

さらに,メディア・住環境の点から言えば,ひとり暮らしの調査対象者のほうが並行利用を行う傾向が強い。したがって,単身世帯が増加するにつれ,上記のようなテレビ視聴スタイルはますます増えるかもしれない。

最後に,本稿では書ききれなかったが,調査結果から,若者のテレビ視聴と他メディア並行利用行動は,ニュース,ドラマ,バラエティなどのジャンルに応じて異なることも示唆された。この点については今後の課題としほかで論じることとしたい。

 

引用文献

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有馬明恵・下島裕美(2003)高齢者のテレビ視聴 日本社会心理学会第44回大会, ポスター発表. http://db1.wdc-jp.com/cgi-bin/jssp/wbpnew/master/detail00.php?submission_id=2003-D-0017 (2008年11月24日現在).

藤原功達 (1982a)ゴールデン・アワーの視聴者タイプ―1 : 情報行動としてのテレビ視聴. 文研月報, 32(10), 26-38.

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http://www.soumu.go.jp/iicp/pdf/200306_4.pdf(2008年11月24日現在)

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NHK放送文化研究所(編)(2003)テレビ視聴の50年 日本放送出版協会.

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[1] 本研究は,慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所の共同研究プロジェクト「記憶の共有と風化―テレビの社会的役割の変化」(研究代表者:萩原滋)の一環として行われたものである。

[2] 30代~40代のインターネット利用率も90%以上と非常に高く(総務省, 2008),テレビ視聴との並行利用頻度も高いと推測される。しかし,これらの世代は幼少期からテレビ視聴の基本的なスタイルをそれぞれ身に着けており,インターネットとテレビを並行利用するにあたっても,基本的なテレビ視聴に付加するかたちでインターネット利用が加わっているだろう。

[3]調査対象者がテレビを視聴している間,リモコン装置は常に座っているソファの上やテーブルの上など,彼らの手元に置かれていた。なかには手にリモコンを持ったままテレビを視聴する者も存在した。

[4] この知見は,多くの調査対象者が,ニュース報道の合間に放送される「特集」を集中して視聴していたという事実からも裏付けられるだろう。上記の調査対象者Iは発泡スチロールのリサイクルに関する特集を集中して見ており,ほかの調査対象者にも「児童虐待」や「(オウムの)松本被告四女の苦悩」などの特集コーナーが開始した瞬間に,ほかの活動を中断してテレビに意識を集中させるというパターンが共通して確認された。

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